FE考察~暗黒皇帝の真実

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 前回(ハーディンの理想)では草原の狼と呼ばれた頃のハーディンの人物像と彼を動かしてきた理想について考察したが、今回はハーディンの皇帝時代の行動原理について考察する。

【定説を斬る!】
 『ファイアーエムブレム』で語られている皇帝ハーディンは彼の人物像の定説となっている。
 ニーナの後見人であり暗黒戦争勝利の立役者でもあったハーディンは戦争終結後、王家の唯一の生き残りニーナの婿として迎えられ、アカネイアの王になった。しかし愛するニーナの心はハーディンには無く、グルニアの黒騎士カミュにあった。そして暗黒戦争の英雄としての名声はマルスの方が高かった。ハーディンは“カミュとマルスへの嫉妬心”とそれを増幅する闇のオーブの力により暗黒皇帝として大陸中に恐怖を振りまいた…、こんな所だろうか。
 他の暗黒皇帝の所業としては多くの者を処刑したり、マルスを罠に嵌めてアリティアを攻めた等色々あるが、最大の罪はマルスに通じるという裏切りを行為をしたニーナを折檻し、ガーネフに差し出した事だろう。アカネイアの秩序においてアカネイア王家は絶対的な存在である。これによって暗黒皇帝ハーディンの悪は確定した。
 当ブログでは毎回のように言っているが、『ファイアーエムブレム』はマルス王朝による勝者の歴史なので、敵である敗者でもある者たちの罪状は割り引いて見るべきだろう。マルス王朝側のプロパガンダという可能性は否定出来ない。
 そしてハーディンの行動は不自然過ぎるのだ。特に闇のオーブによる人格の豹変はあまりに都合が良過ぎないだろうか?

 ハーディンの不自然な行動として最初に思いつくのは『ニーナをガーネフに差し出した事』だ。“まともな人間なら”ありえない行動だ。ハーディン皇帝の権力の正当性の根拠『ニーナの婿であり、彼女からアカネイアの統治権を委譲されている。』この一点しか無く、ニーナを手放すのは自殺行為以外の何物でも無い。実際にニーナという錦の御旗を失ったからこそ、ミディアはクーデターを起こし、マルスはパレスに攻め込んだのだ。
 しかしハーディンはまともでは無い。闇のオーブで増幅された嫉妬心から狂っているのだから…と正史は語る。が、不自然ではないか?というよりも都合が良過ぎないか?ハーディンを悪者に仕立てて倒したい者たちにとって。誰かは言うまでもない。マルスと彼を担いだ反ハーディン派の者たちだ。

 マルスへの嫉妬というのも不自然だ。暗黒戦争終結時点でハーディンはマルスよりもずっと大きな成功を手にしているからだ。元々ハーディンとマルスとでは家格に差がある。『ファイアーエムブレム』ではマルスをハーディンと同格以上に見せようという印象操作をしている。これについては別の記事で語る。

 カミュへの嫉妬もまた不自然だ。ハーディンはニーナと結婚している。死んだ元カレ(?)を気にするのもおかしいし、例え生きていたとしてもハーディンを脅かす存在にはなり得ない。
 結婚した妻が元カレに未練があるという話は“よくある話”だろう。(例:アルテミスとカルタス王、アンリの関係にも重なる。)しかしそんな小さな事を気にする者はアカネイアでは軽蔑される人物像だと思われる。
 そもそも“妻の心にが元カレの存在がある事自体が許せない”のは相当嫉妬深く粘着気質だが、それは“相手の心をも支配したいと欲する者”の発想である。現代で言えば恋人の携帯電話を細かくチェックするような人物といったイメージか。
 だがハーディンは騎馬民族の異文化に入り込み、人が人を支配する奴隷制度を否定した人物である。他人を支配したいと欲する嫉妬深い人物が異文化に入り込むだろうか?奴隷制度の廃止など考えるだろうか?

 そう考えるとハーディンの人物像の“定説”は事実を曲げ、都合良く作られた虚像だと断定出来る。ではハーディンの虚像を作り上げたのは誰か?ハーディンの成功を妬んだアカネイア人たちである。彼らは暗黒戦争当時から噂されていたニーナと敵国の将軍とのロマンスを絡ませて、自分たちに都合の良いハーディン像の風聞を流した。それを聞く者たちも自分にとって都合の良いハーディン像を作り上げていく。まさに『人は噂の奴隷であり、しかもそれを自分の望ましいと思う色をつけた形で信じてしまう。』(ユリウス・カエサルの名言)である。

 ハーディンを倒したマルスはその風聞に乗っかることで自らの正義を強化した。

 ニーナを手放すのも、嫉妬に狂うのも、草原の狼時代のハーディンの姿からは決してありえない行動だ。“闇のオーブ”という常識を越えた神器の力だとしか説明出来ないほど、ハーディンの豹変ぶりは不自然なのだ。
 闇のオーブはほんの僅かな嫉妬心でも増幅する力があるのだと反論は可能だが、そもそも闇のオーブという神器を目に出来る者、触れられる者などごく限られる。その神器に秘められた力など何とでも言えるのではないか。

【皇帝の権力】
 もう一点『ファイアーエムブレム』での定説を信じるには不自然な事がある。
 それは“皇帝”ハーディンの権力が強大過ぎることだ。

 ハーディンはニーナを救い暗黒戦争を勝利に導いた英雄(その功績はマルスより遥かに高い)とはいえ、属国の王弟に過ぎず、アカネイアの名門カルタス家の傍系に過ぎない。そのハーディンのアカネイアにおける権力基盤はどこにあるのだろう?
 『その強引とも思えるやり方で瞬く間に国力を回復し多くの兵を集めて強大な軍隊を作り上げた』
 前回述べたような奴隷解放や身分に囚われない人材登用もこれに含まれるが、これらを“強引に”実現するには反対の声をも黙らせる圧倒的な権力と正義が必要だ。少なくとも軍の改革は実現しているのだから、実際にハーディンの権力は絶大だったに違いない。

 そして皇帝という王よりも上位と思われる称号もまた不自然だ。カルタス王ですらその独裁を阻止するため“王”止まりだったのにハーディンは上位の“皇帝”である。一応その強大な軍事力を背景に『自ら皇帝となった』という説明は一応筋が通ってはいる。(参考:聖王国を蘇らせた男・後編)しかし皇帝になる以前から“強引”な改革を可能とする権力は与えられていた。もともとハーディンの独裁以前に増長すら許せない者も少なくなかったはずである。そもそもアカネイア貴族たちは草原の田舎者がニーナと結婚し、アカネイアの統治権を行使する“王”の称号を賜ることすら反対だったのではないか。

 元々オレルアン王弟でアカネイアでの権力基盤(具体的に言えば軍事力と財力)を持たないハーディンに絶対的な権力を与えたのは誰か?
 それはアカネイア王家唯一の生き残りにして現当主・ニーナ以外に存在しない。
 血統主義のアカネイア社会ではアカネイア王家当主の権威、正義は絶対だ。王家の生き残りがニーナ一人なら尚更だ。
 ニーナはハーディンの改革路線を全面的に支持し、彼に独裁ともいえる程の権限を与えた。これは事実である。

【ニーナの真実】
 皇帝となる前のハーディンが“強引とも思えるやり方”を実現するためにはニーナの“絶対的正義”が不可欠だ。言う事を聞かせる武力も懐柔させる財力も持たないハーディンはニーナの絶対的正義を最大限利用し、財政と軍制改革を進め、その権力を確かなものとした。

 ハーディンの改革路線はむしろニーナ自身の強い意向だったともいえる。ハーディンはニーナに与えられた人事権によって改革を実行するための官僚や軍人を抜擢したに過ぎない。(後にマルスはハーディンに見出された人材、あるいは彼らの作ったシステムを活用してその政権を安定させたと思われる。)
 だが、その改革のビジョンはアカネイアに生まれ、アカネイアの価値観によって育った姫君のニーナから生まれる発想ではない。やはり“ハーディンの理想”なのだ。

 政治力の無いニーナを夫ハーディンが無理矢理言いなりにさせたのでは?という反論も考えられるが、そもそもオレルアン王弟ハーディンはニーナの結婚相手として家格の点でハンデがあった。他に候補がいないわけではない。例えばアカネイア名門貴族のジョルジュなら家格の点でハーディンより相応しい。ハーディンとの結婚はアルテミスの時代に例えれば、カルタスよりもアンリの方が近かったのではないか。王女との格差はアンリほど離れていないが。そうなると貴族たちは成り上がり者の増長を防ぐためにあらゆる妨害をしただろう。マルスは早々に彼らの嫉妬から逃れたが、ハーディンは逃げなかった。だがこの時点のハーディンに貴族たちの妨害を跳ね返す政治力は無い。
 そう考えるとハーディンとの結婚を実現させた最大にして唯一の決め手はニーナ自身の意志だったのだ。
 そしてニーナの望みはハーディンに彼の理想を実現させること。

 つまり、定説とは逆に…
 ニーナはハーディンを愛していたのではないか。
 草原への亡命から暗黒戦争終結までの期間、理想や夢を語り、愛を育む時間は十分にあった。それは愛し合う二人にとってこれ以上ない至福の時だったのではないか。

 暗黒戦争終結後のニーナを待つ運命はアカネイア王家唯一の生き残りとして、政治闘争の道具として、あるいは子を産む道具として利用されることである。王女として生まれた以上、政略結婚は避けられないが、身内のいない孤独の中で貴族同士の政争に翻弄されるのは酷というものだ。
 だがニーナはそれでも王族としての責任を果たさねばならぬと決意していた。そんなニーナを守るため、ハーディンは敢えて草原を捨て、策謀渦巻くパレスに飛び込んだ。
 ハーディンにとってニーナを守るという誓いはそれほどまでに重いものだった。
 

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