FE考察~女王ニーナの征戦

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【戦う女王ニーナ】
 ……、と言うと意外に思われるかもしれない。
 ニーナはゲーム中で女王と呼ばれたことは無く、“姫”あるいは“王妃”と呼ばれてきた。しかしアカネイア聖王家の唯一の生き残りであるニーナは聖王家の当主であり実質的には女王と言える。
 聖王家の当主には各地の首長に“王”の称号と共にその地の統治をする役目を与える権限がある。皇帝ハーディンもまた実質の女王ニーナにアカネイアの統治を委任されたという点で例外ではない。かつてアルテミスは聖王家の当主として夫カルタスに“王”の称号を与え、アカネイアの復興を任せた。またアリティアやオレルアンなどの属国も同様にアンリなどの各地の代表に“王”の称号と統治の任を与えた。跡継ぎの王たちは世襲ではあっても、王位の継承には聖王家当主の承認と任命が必要だったと考えられる。

 ゲーム中のニーナには戦うイメージは持ちにくいかもしれない。第2部終章で一応トロン持ちの司祭というユニットで表現されてはいるものの、実際は戦いに参加する可能性も低い。
 だがニーナは第1部ではドルーアまでの遠征に自ら出向いている。それにマルスと合流する前のオレルアンではゲリラ戦法を仕掛けつつ転戦するハーディンと共にいた。
 ニーナは決してゲーム中のイメージのように安全地帯にいながらカミュとの悲恋に浸っていたわけではない。さすがにマルスやハーディンのように剣を持って直接戦うわけではないだろうが、戦場に赴けば流れ矢が飛んでくるかもしれないし、敵の奇襲、刺客、味方の裏切り、不慮の事故、敗戦…といった命の危険は少なくなかった。当然、聖王家唯一の生き残りなのだからと家臣からは止められたに違いない。それでも自らの危険を顧みず前線で命を張る将兵を鼓舞し続けたニーナは勇敢な“戦う女王”と言っても良いのではないだろうか。

【アカネイア・パレスへの帰還】
 ゲーム中でアカネイア・パレスとその周辺は拍子抜けするほど敵の戦力が少なかった。それ以前のレフカンディやディール要塞の守備もマケドニア竜騎士団の助力を請うほど手薄だったが、聖都パレスは死守すべき重要拠点にしては、あまりにも戦力不足だ。
 同盟軍がパレスに進軍した時点で、グルニア軍はオレルアンを撤退したマケドニア軍と同様にアカネイアからの撤退を決定したのではないか。続くメニディ砦での戦いは木馬隊といえば聞こえは良いが、実際は足の遅いシ木馬隊は足止めの壁にされていたのだろう。グルニア軍は木馬隊とグラ王国を捨石に、防衛ラインをアリティアまで下げた。

 オレルアン~パレスの間でアカネイア同盟軍とドルーア連合軍の力関係は逆転し、圧倒的な差をつけるまでになっていた。

 ターニングポイントはニーナとマルスが合流し、ファイアーエムブレムを授けた時である。それ以前もドルーア連合の停滞感やハーディンの抗戦による反ドルーアの機運の高まりはあったが、ニーナとマルスが出会ったことにより、大陸の人々の誰もが“アルテミスとアンリの奇跡”の再現を予感した事が決定打になった。
 そもそもニーナは生きている事自体が奇跡で、大いなる運命の力に守られているとしか思えない。奇跡の王女ニーナの率いる軍団が負けるはずがないと、当時の人々はその神通力を信じざるを得なかった。

 ドルーアは悪の帝国、グルニアとマケドニアらはその手先、アカネイア同盟軍は正義の軍団という図式が出来上がった。そして“正義は勝つ”のだ。こうなると同盟軍に馳せ参じる者は後を絶たず、逆にアカネイアを占領しているグルニア軍は現地での兵員や物資の徴用もままならない。実際グルニア軍にはソシアルやアーマー等の正規兵しかおらず、戦士やハンター、ソルジャーのような現地徴用兵がほとんどいない。
 
 暗黒戦争の趨勢はニーナがパレスに帰還した時点でもう決している。その後のグルニア、マケドニア、ドルーアとの戦いは完全に掃討戦と言ってもいい。

【ドルーア掃討戦】
 賊軍の位置に落ちたドルーア連合軍には再逆転の目はまず無かった。僅かな希望があるとすれば、聖王家唯一の生き残りニーナの殺害しかない。その圧倒的な勢力の差をもってすれば、グルニアとマケドニア、ドルーアからの勝利は黙ってても転がってくる。だからこそニーナは何故命の危険を冒してまで掃討戦に出陣したのかが疑問なのだ。

 答えを考察してみる。

 まず家族を皆殺しにし、自分も死の直前まで追い詰めたドルーアへの恨みを晴らすため。ニーナは案外、憎き仇の滅びをこの目で見ないと気が済まないという、イメージに反した苛烈な気質の持ち主だったのかもしれない。

 ニーナが自ら総大将として出陣することで、信頼するハーディンとマルスを継続して重用出来る。この頃にはハーディンとマルスはニーナ直属の親衛隊のような存在になっていた彼らはニーナが主体性を持って発言する為に必要な武力だった。逆に言えばジョルジュやミディアらアカネイアの古参貴族を信用していなかったとも言える。
 仮にニーナがパレスに残ってドルーア討伐軍を組織する際、国外勢力のハーディンやマルスを大将に抜擢することは不可能だ。それどころか、国外勢力ゆえにニーナの手元に置くことすら難しい。子飼いの武力を失ったニーナは古参貴族の傀儡にされるしかない。
 ドルーア掃討戦はニーナが親衛隊たるハーディンとマルスを手元に置いて使う口実であり、ドルーア討伐の武功の欲しいハーディンやマルスにとっても都合が良かった。

 聖王家の絶対的な正義、神通力を世に知らしめ、自らの王者としての正統性を決定付けるため。この世界では“正義は必ず勝つ”という信仰がある。逆に言えば、戦に負けるのは正しい統治者ではないからだとみなされる。マルスとハーディンは明らかにこの価値観に沿って行動している。属国だけでなく有力貴族に背かれて滅亡直前に追い込まれた聖王家の統治者としての正統性は大きく揺らいでいる。ニーナにとってこの戦争はアルテミスと父王の時代に失われた神通力を示すための戦いなのだ。

【悲劇の王女】
 外国勢力たるハーディンとマルスを抜擢するなど、暗黒戦争でのニーナは過酷な状況に負けない強い意志を持って行動していた、勇敢で聡明な女王だった。しかし、世間一般には過酷な運命に翻弄される悲劇の王女というイメージが浸透している。何故なのか?

 まずは“戦う姫”のイメージでは本当に最前線で槍を振るうミネルバやシーダ、ミディアには適わない。彼女らの存在がニーナの居場所を安全地帯だと錯覚させてしまった。
 そして何よりも、ニーナのイメージを“戦う女王”にすることは誰も望んでいなかった。人々が望むニーナは悲劇の王女アルテミスの再来である。愛する者と結ばれず、国のためにその身も心も捧げるなど悲劇的な運命に翻弄される儚き王女の物語のヒロインである。
 ニーナの最大の理解者であるハーディンもニーナを保護対象として見ていて、戦う女王になることは望んでいはいない。他国と違い、女戦士の登場しないオレルアンの男女観もあるのかもしれない。

 そして、実像とは隔たりのある、人々が望むニーナ像を広めて定着させたのが、アリティア発の軍記物語『ファイアーエムブレム~暗黒竜と光の剣』なのだ。





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